『ウナギいきのこりすごろく』は、自然環境保護と生物多様性の保全に取り組む公益財団法人日本自然保護協会が、複数の専門家と共に開発した教育ツールです。すごろくの手法を使って、ニホンウナギの一生を擬似体験するものですが、単にウナギについて学ぶというだけでなく、生物多様性のあり方や、サステナビリティ(持続可能性)を考えることができるラーニングコンテンツとなっています。
学びのポイント
- ウナギを取り巻く生態とその環境について学ぶ
- 人間の経済活動と環境保全のバランスについて考える
- 資源の持続的利用(サステナビリティ)について考える
対象:小学校4年生〜
「土用の丑の日」で親しまれ、古くは縄文時代から日本人に食べられてきたウナギ。国内では年間約6万3千トンが供給される一方で(※1)、国際自然保護連合(IUCN)や環境省によって、絶滅危惧種に指定されていることはご存じでしょうか。
この『ウナギいきのこりすごろく』は、そんなニホンウナギについて楽しく学びながら、人間の経済活動と環境保全の適切なバランス、その先にある資源の持続的利用を考えるゲーム。ユニークなウナギの一生を通して見えてくるのは、私たち人間の営みが彼らに与えている、とても大きな影響です。
学び方
以下で紹介するのは、4〜6人ですごろくを行う場合の一例です。
まず、すごろくを開始する前に、ウナギの基礎知識と学び方を解説した動画を視聴します。事前に視聴しておくことで、ゲームがスムーズに進行でき、ウナギに関する理解も深まります。
すごろくでは、回遊しながら成長するウナギの一生をたどります。グアムやサイパンの西方、西マリアナ海嶺で生まれたウナギは、海流に乗って数千キロメートル離れた日本まで旅をします。到着してからは川をさかのぼり、湖や池などで暮らしたのち、卵を産むためふたたび西マリアナ海嶺へと泳いでいきます。そのため、ウナギは淡水魚でも海水魚でもなく「降河回遊魚」に分類されます(※2)。
基本ルールは一般的なすごろくと同じで、サイコロを振って出た目の数だけコマを進め、止まったマスに書いてある指示に従います。大きく異なるのは「勝ち負け」がないため、参加者(すごろくボード一枚につき定員4〜6名)は順番にサイコロを振って「ひとつのコマ」を一緒に進めていきます。キューブ状のコマの各面には、ウナギが卵から成魚になるまでの姿が描かれていて、「成長して◯◯になった」というマスでは、コマを回転させてウナギを成長させます。
「−1」「−2」といった数字のマスで止まると、外敵に食べられたり、漁につかまったりして、ウナギは減ってしまいます。参加者たちは、手元の「ウナギシート」に描かれた25匹のウナギをなるべく減らさずにゴールをめざす必要があります。
また、本ゲームのポイントとなるのが、「カードをひらく」のマスで使う4枚の解説カードです。例えばあるカードを開くと、治水や利水に役立つ「ダム」が、実はウナギにとって回遊の障害となることが説明され、カードで指定されたサイコロの目が出ないと、ウナギたちはダムを越えられず、次々に減っていく仕掛けとなっています。
こうした数々のピンチに耐えて生き残り、ゴールのマリアナ海嶺までたどり着くと、ウナギは無事産卵し、一生を終えます(もしウナギが全滅してしまっても、ゲームは最後まで続行可能です)。
ゲーム終了後は、すごろくで得た学びをアウトプットする時間です。まずはウナギが減った理由を、「人によるもの」と「自然によるもの」に分類します。ウナギの減少理由はサイコロの目の出方によって異なるため、分類し共有することで新しい発見が得られます。
続いて、「どうしたらウナギを増やせるのか?」というテーマでもディスカッションを行います。議論する上でポイントとなるのは、「バランス」です。例えば、「ウナギが川をさかのぼれるようにダムをなくそう」というアイデアが出たとします。しかし、日本にあるすべてのダムを取り除くのは現実的ではありません。では、役目を終えた廃ダムを撤去するのはどうでしょうか。このように、「人間の暮らしも維持できて、ウナギも保護できるバランス」を考えることで、建設的な議論が期待できます。
生育環境の整備や、採捕制限、漁業の許可制度など、ウナギを保護するための取り組みは各自治体で広がりつつあります。一方で、密漁や不正取引といった課題も多く、その道のりは決して平坦なものではありません(※4)。
ウナギを通して、限りある資源を持続的に利用していくために、環境保全と人間の経済活動の両方に配慮することを学ぶ。このすごろくを活用することで、そんなバランスを考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
※1 出典:農林水産省 ウナギ供給量の推移(クリックするとExcelデータがダウンロードされます)
※2 出典:環境省 ニホンウナギの生息地保全の考え方
※3 出典:消費者庁 限りある資源を大切に、食品ロスからウナギを守る取組
※4 出典:水産庁 ウナギをめぐる状況と対策について
紹介したコンテンツ
授業やワークショップで本ゲームを実施する際は、ウナギの多様な減少要因を体験し、その現状に関する理解を深めることができる「90分で2回」すごろくを行う方式が推奨されています。
公式サイトからは、すごろくセットの印刷・入稿用データがダウンロード可能です(ニホンウナギやウナギを取り巻く状況について学び、議論する機会を提供する目的であれば、自由に使用することができます)。また、授業やワークショップで使用する際のすごろくセットの貸し出しも行っています。
ダウンロード:https://www.nacsj.or.jp/unagi_game/download.html
すごろく使用の申し込み:https://www.nacsj.or.jp/unagi_game/application.html