Learning Design Lab. ラーニング デザイン ラボ
#ラブ&セックス学

パートナーと共に家事・育児の分担について学ぶ対話型カードゲーム

みんなのカジークジー

共働きの家庭が珍しくない現代。「子育て」という新たな家族のフェーズに入ってからの日々の家事や育児は、どちらか一方だけが負担するのではなく、互いに話しあって無理のない分担を模索することが大切です。とはいえ、改めて「話しあおう!」と向きあうのは意外に難しいもの。そこで、2人で楽しみながら日々の家事・育児・仕事について考えることができるラーニングコンテンツが、この育児対話カードゲーム『みんなのカジークジー』です。

学びのポイント

  • パートナー同士で実際に話しあう体験
  • 多数の家事・育児の具体的な作業
  • 実在する育児支援サービスの内容

対象:中学生〜


現代は、さまざまな生き方が尊重されるようになり、夫婦や家庭のあり方についても「こうあるべきだ」と画一的に押しつけられる時代ではなくなりました。

パートナー2人で遊ぶことを想定したカードゲーム『みんなのカジークジー』は、「男性が育児をしよう」とか「半分ずつ分担しよう」などと訴えるのではなく、家事や育児に関する2人の対話を促進し、その生き方にあった答えを探してもらうことを目的としています。

このゲームは、公益社団法人東京青年会議所の板橋区委員会が制作を企画し、立川市で男性の育児参画を支援する『主夫ラボ』と、板橋区でボードゲームを制作している『いたばしの地域ボードゲーム会』が協力して、2021年に試作版『カジークジー』を完成。その後、多方面から購入要望を受けたことで、ゲーム内容をブラッシュアップし、2023年から受注生産に対応した新バージョンが本作『みんなのカジークジー』です。

学び方

『みんなのカジークジー』は、ファンタジーRPG風の世界を舞台に、プレイヤー2人が協力して生き抜くゲームです。ゲームの物語は、悪の魔王を倒した勇者たち(プレイヤー)が罪なき魔王の赤ちゃん「カジークジー」を育てることになった、という場面から始まります。

全部で128枚あるカードセットに加え、ウェブ公開されているゲームシート(PDF)を家庭やコンビニで印刷し、ペンで情報を書き加えながら進めていきます。

ゲームのプレイ風景。シートの左端に100枚近いトラブルの山札が積まれています

分厚いカードセットの大部分を占めるのは96種類の<トラブルカード>で、このカードは<家事><育児><仕事>の3種類について、「子どものオムツ交換」「米の買い出し」「理不尽な残業」など、思わず「あるある!」と共感させる出来事が1枚1枚に描かれています。

特に家事と育児のカードは種類が多く、「日々を支える仕事はこんなにあったのか」と改めて実感させてくれます。

トラブルカードのタイトルには「あるある!」と共感できるトラブルがいっぱい

ゲームを始めたら、シャッフルされたトラブルカードの高い山から、数枚を場に出します。プレイヤー2人はトラブルの内容を見て、どちらがどれを受け持つか、話しあいですべてのトラブルの分担を決めてから、各トラブルの「解決」にあたります。

トラブルの「解決」方法はいたってシンプルです。トラブルカードを裏返すと、そこには解決に必要とされる「能力値」が書かれており、受け持ったプレイヤーは自分のキャラクターの能力値と見比べます。自分の能力がトラブル解決に必要とされる値以上ならば、成功。足りていなければ、失敗。これだけです。

カードの裏面にあるユニークなトラブルの説明も魅力のひとつです

トラブル解決の成否によって、「キャラクターのHP(生命力)」が減っていきます。HPは減点方式のスコアのようなもので、ゲームが終わるまでに2人のHPができるだけたくさん残るよう、分担を工夫するのがこのゲームの目的です。

実はこのシンプルなプロセスにこそ、本作が「育児対話カードゲーム」といえる次のような特徴が詰まっています。

特徴1:キャラクターが自分の分身である

自分のキャラクターとその能力値(ステータス)は、ゲーム開始前にプレイヤー自身で決めることになっています。能力には<力><体力><器用さ><賢さ><愛情>といった種類があり、自分の個性にあわせて与えられた数値を割り振ります。これらの値はHP(生命力)とは異なり、ゲーム中に減ることはなく、トラブル解決の判断材料になります。

特徴2:互いのことを想像してプレイする

トラブルの解決時には、相手に自分の能力値(ステータス)を知らせることは禁止されています。そのため、過去のトラブルを解決した時の成否から、相手の得意・不得意を想像したり、トラブル解決に必要な能力値を予想して、分担を話しあうことになります。

特徴3:成功しても疲れは溜まっていく

トラブル解決に失敗すると、担当したキャラクターのHP(生命力)が大きく減ります。しかも、解決に成功してもHPは減少。トラブルの数が増える終盤では、助けあいの精神なしに越えられない困難も多く、協力の達成感を生み出しています。

紙とペンで自分のキャラを作成。プレイ中にこのシートはパートナーに見せません

次はどんなトラブルが襲いかかってくるのか。情報不足の中、2人で協力してできるだけたくさんのHP(生命力)を残して生き抜くことが、このゲームのゴールです。

ゲームとリアルを結ぶ工夫

ゲームは「3週間の育児」という設定で、トラブルの分担・解決に合計15回(平日5日間×3週)チャレンジします。日が進むほどトラブルの数も増えるため、HPはどんどん減っていきます。条件は厳しくなりますが、プレイヤーの助けとなる<ヘルプカード>と、最初に選択できる「奥義・秘術」というキャラクター特技をうまく使うことで、ハードな場面を無傷で切り抜けられることもあります。

この<ヘルプカード>の一部には、現実に存在する「公共の育児サービス」が描かれているのがユニークなところ。東京都板橋区向けのバージョンであれば、区が実際に提供している『ファミリーサポート』『子どもショートステイ』『子どもなんでも相談』などが、短い説明文に加え、公式WEBサイトのQRコードも掲載されたゲームカードになっています。

板橋版では、東京都板橋区の実際の施設やサービスが紹介されています

ゲームだからできる学びのカタチ

本作の開発元のウェブサイトを見ると、このゲームのコンセプトとして次のような説明が書かれています。

“ ゲームと現実は違います。だから、ゲームの中で決めていった分担は、現実にそぐわないかもしれません。でも、ゲームの中とはいえ、未知のトラブルを前に「互いの能力、消耗をふまえて話し合った」ことは現実の経験になります。
子育てはずっと予測不能です。それまで会ったこともない1人の人間が、ある日とつぜん、家族に加わるのですから。現実の家事・育児・仕事にふりまわされ、疲れ切ったときには、2人で顔を合わせて、つぶやいてみてください。
「どうする? またトラブルカード発生だね」

「オムツの替え方」「哺乳瓶の洗い方」「離乳食の作り方」など、家事・育児に関するさまざまな実技を伴う知識を身につけることが目的であれば、ゲームで遊ぶよりも座学で習った方が効率的かもしれません。しかし『みんなのカジークジー』では、互いに「話しあう経験」そのものを学習目的としています。

このゲームは、実際のパートナー同士を対象に制作されたものですが、そうではない人同士でも学ぶことはもちろん可能です。むしろ、予測不能なことばかりの育児だからこそ、たくさんの「知識」を持つこと以外に、対話した経験、助けあった経験を持つことが、いつかの未来に向けた大切な「知恵」になるかもしれません。

紹介したカードゲーム

みんなのカジークジー


掲載日

執筆:LearningDesignLab編集部

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