今回紹介する『OUTRIDER』は、「もしも核爆弾が落ちたとき、その街がどのような被害状況になるのか」をシミュレーションすることができるWEBサイトです。核爆弾を落とす地点と種類、落とし方を選択すると、死亡者数や負傷者数に加え、放射線、熱風、衝撃波、火球の被害範囲を予測してくれます。
もしも自分の住んでいる街に、自分の家族が住む街に、よく遊びに行くあの場所に、核爆弾が落ちたとしたらどうなってしまうのか。核爆発の被害想定をシミュレーションすることで、その脅威の一端を知ることができます。
学びのポイント
- ある地点に核爆弾が落ちたときの被害状況をシミュレーションできる
- 核爆弾の種類、落とし方によって被害状況の違いを知ることができる
対象
- 平和学習のコンテンツを探している人
- 核爆発の被害の一端を知りたい人
日本は、第二次世界大戦時に広島と長崎に原爆が投下され、世界唯一の被爆国として知られています。終戦から22年後の1967年には、当時の内閣総理大臣によって「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」と核兵器への姿勢を示した非核三原則が提唱され、今日まで掲げ続けてきました。一方で、世界を見渡すと、核兵器を保有する核保有国が複数あり、今でも核実験が行われている現状があります。
「もしも自分がいる場所に、核爆弾が落ちてきたら. . .」
核兵器は一般的な兵器よりもとてつもない威力があり、危険なものだということは認識しているものの、その被害想定については漠然としたイメージの方も多いのではないでしょうか。
非営利法人Outrider Foundationが公開したWEBサイト『OUTRIDER』は、自ら設定した地点に核爆弾が落ちた場合の被害状況を予測してくれるインタラクティブなツールです。視覚的に分かる被害範囲、そして死亡者数や負傷者数といった具体的な数値でその威力の一端を知ることができます。
WEBサイトを開くと、最初に「地点」を設定する画面が出てきます。入力欄には日本語での入力も可能で、地名を入れるとそれにあわせて候補地も表示されます。また、デバイスの位置情報を共有することで「現在地点」の設定も可能です。 入力画面の背景には常に原爆投下までの爆破映像が流れていて、実際の様子も伺えます。
今回の事例では、日本の首都の中で一日の乗降客数が世界で最も多い新宿駅のある〈東京都新宿区〉に地点を設定してみます。
地点を選択すると、立ち所に「What would happen if a nuclear bomb went off here?」(この場所で核爆弾が爆発したらどうなるだろうか?)のメッセージが表示され、爆発した場合の被害状況が表示されます。
このケースの場合、死者は推定5万2371人、負傷者は推定12万8661人(2024年11月時点)。核弾頭の種類は、広島に投下された『リトルボーイ』がデフォルトの設定になっています。
マップに表示された中央の「白い円」が爆心地となり、「火球(Fireball)」の範囲を示しています。3層になっている円は、内側からオレンジが「衝撃波(Shock Wave)」、ベージュが「放射線(Radiation)」、赤が「熱線(Heat)」の範囲を意味し、それぞれをクリックするとより詳細な説明が出てきます。
例えば、赤色の「熱線」の場合は、赤い円内にいる人は重度または致死レベルのⅢ度の火傷を負うことになると記載されています。補足ですが、火傷はⅠ度から浅達性Ⅱ度、深達性Ⅱ度、Ⅲ度の4段階に分類され、Ⅲ度は、痛みを感じる神経まで損傷されてしまうため痛みを感じない、最も危険レベルの高い熱傷です。
マップの画面上部では、核爆発の条件を変更することができます。変更項目は2つあり、1つ目は核弾頭の種類です。〈BOMB〉をクリックすると、広島に落とされた『リトルボーイ』、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)『火星14』、アメリカ製の『W87』、ソ連が開発した人類史上最大サイズの水素爆弾『ツァーリ・ボンバ』の4種類から選ぶことができます。
東京都新宿区の地点は変えず、広島に投下された原爆の約3300倍に相当するとされている『ツァーリ・ボンバ』に変更すると、これまで新宿近郊の約9kmまでしか被害範囲に入っていなかったところを、西は東京都の八王子、南は神奈川県の横浜をゆうに越える広範囲の表示となり、死者数・負傷者数ともに一気に数字が増加しました。
変更項目2つ目は、右上にある〈BLAST TYPE〉、爆発高度を「地表」か「空中」かの2択で選択することができます。核爆弾は、爆発高度によって威力が変わり、核物理学者である葉佐井博巳広島大名誉教授によると「空中で爆発することで地表から跳ね返った衝撃波と重なり、威力が大きくなる」そうです。
核爆弾の種類を『リトルボーイ』に戻し、爆発高度を「空中」に変更した場合、最初の「地表」で爆発した場合と比較すると、死者数は約2倍、負傷者数は約3倍になりました。
2つ目の事例として、日本以外の地点でのシミュレーション結果を紹介します。
人口密度の高さから、世界有数の観光スポットであり、誰もがテレビなどで一度は見たことがあるアメリカのニューヨークのタイムズスクエアを地点として設定します。核弾頭の種類は、広島と同様の『リトルボーイ』。それが「地表」で爆発した場合、死者数は30万837人と新宿区の約6倍、負傷者数は36万1674人と約3倍になりました。
最も威力が大きい条件(最大サイズの水素爆弾『ツァーリ・ボンバ』が「空中」で爆発した場合)に変更してみると、死者は708万318人、負傷者は609万3235人に上ると推定されました。先の被害の約20倍の想定です。
これらのシミュレーション結果は、あくまですべて仮定ではあるものの、自分の暮らす街や、自分がよく知る地名の爆心地から同心円状に広がる影響や、被害状況が数値で目に見えると、核兵器の威力の一端を感じることができるのではないでしょうか。
日本は世界唯一の被爆国として、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を掲げています。広島と長崎の歴史に想いを馳せつつも、本サイトを通して、身近な地点の被害を想定してみることで、「核兵器」という大きな出来事について改めて考えるきっかけになると思います。
紹介したWEBサイト