“性に関する知識”、いわゆる性教育をどう学べばいいか、どう伝えればいいか、悩んだことはありませんか?
そんなときに活用できるのが、性教育の動画コンテンツサイト『AMAZE(アメイズ)』です。『AMAZE』は、アメリカの性教育NGO団体『AMAZE.org』が製作したサイトで、性教育だけでなく、「身体の成長」「ハンディキャップ」「人間関係」「心の動き」など幅広い分野について学べる動画を無料で配信しています。
英語圏のみならず、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、ラテンアメリカなど全世界に届けられるよう幅広い言語でコンテンツが翻訳されていて、アニメーションを使った動画となっているため、視覚的に分かりやすく、大人にとっても学びが多い内容です。また、動画以外にもワークシートなどで性教育を学べるコンテンツが提供されていることも『AMAZE』の特徴です。
学びのポイント
- 〈 思春期 〉〈 多様な性 〉〈 性暴力 〉〈 性感染症 〉〈 妊娠・避妊 〉など、性に関わるテーマを幅広く動画コンテンツで学ぶことができる
- 教育者や保護者向けに、「性教育を伝える側の知見」を得ることができる
対象
- 10代~
これまで日本の”性教育”は、主に学校の保健体育の時間などを通じて、生理や射精といった「生殖に関わる身体の仕組み」や、「避妊」「性感染症」といったリスク回避のための知識を学ぶものとされてきました。
しかし近年は「LGBTQ+」の権利への関心や、「ジェンダー」をめぐる議論が広がり、「性をどう理解し、他者とどう関わるか」という一人ひとりの「アイデンティティ」や「人権」に深く関わるテーマとして”性教育”を捉える必要性が高まっています。
2009年にユネスコによってまとめられた『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(2018年改定)では、生殖の仕組みだけでなく、人間関係や性の多様性、ジェンダー平等、幸福など幅広いテーマを含む教育を『包括的性教育』と定義し、現在の性教育の国際的な指針になっています。
これには、従来の性教育には含まれなかった「セルフプレジャー」や「マスターベーション」といった自分自身の身体や快感について理解することや、「セックス」「性暴力」「性感染症」といった人と関係を築く中で知っておくべき知識を学ぶことも含まれています。 これまでの「知識の伝達」中心の”性教育”から、「自分と他者を尊重し、よりよく生きるための知恵」としての”性教育”へ、学びの在り方が変わろうとしているのです。
一方で、インターネットが浸透し、SNSなどで多くの情報に簡単にアクセスできる現代社会になったからこそ、情報の「信頼性」はより重要さを増しており、正確でありながら、分かりやすく学べることが求められています。
今回ご紹介する性教育動画コンテンツサイト『AMAZE』は、アメリカの性教育NGO団体によって作られ、性教育に関する取り組みを行う日本のNPO法人『ピルコン』によってサイトの翻訳・動画の吹き替えが行われています。
WEBサイトを開くと英語で表示されますが、サイトの右上〈 文・A 〉と書かれたボタンをクリックして日本語を選択することで、下記のような日本語ページに遷移するので、親も子どももしっかりと学ぶことができます。

「性」に関するたくさんの動画がアップされていますが、何を学びたいのか、どのようなことを知るべきなのか、その道しるべとして以下の6つのテーマに分類されています。
- 〈 思春期 〉
- 〈 多様な性のあり方 〉
- 〈 性暴力・情報リテラシー 〉
- 〈 健康的な人間関係 〉
- 〈 性感染症 〉
- 〈 妊娠・出産・避妊 〉
※英語版の動画約270本の内、66本の動画が日本語版として配信(2025年3月現在)
すべての動画は、全米セクシュアリティ教育基準(National Sexuality Education Standards)や国際的な性教育ガイドライン(International Technical Guidance on Sexuality Education)に準拠して製作され、教育理論や公衆衛生の専門家が監修。そのため、情報の正確性が担保されているので、安心して動画を視聴することができます。
また、動画はそれぞれ1分~3分程度。ポップで親しみやすいアニメーションで、ストーリー性を持った内容でテーマを解説してくれ、データや図を示しながら分かりやすく学べるコンテンツもあります。
一例として、〈 性暴力・情報リテラシー 〉の中にある『性的虐待は誰にでも起こりうること』を紹介します。

動画は、主人公となる男の子・エメットが、性暴力ホットラインにチャットするシーンから始まります。エメットはスイミングスクールでコーチに居残りを指示され、居残り中に性器を触られたという悩みを抱えていました。
ホットラインの相手は、「勇気を出して話してくれてありがとう」と伝えた上で、それが性的虐待にあたり「決して君のせいじゃない」ことを教えてくれます。
「でも僕は男なんだ。男の僕に起こるわけないよね」と言うエメットに対し、「性的虐待は誰にでも起こり得ることなんだ」と説明し、6人に1人の男性が18歳になる前に性的虐待を経験するとのデータを示します。

その後、エメットにできる対処法として、電話やチャットなどの相談窓口があることを示し、身近な大人への相談を後押しします。結果として、エメットは母親に打ち明けることを決意するというストーリーです。

動画の途中には、「コーチが触ったから僕はゲイになったって事?」と心の不安を語るシーンがありますが、「性的虐待」のテーマと関連して「性的指向」に関する悩みにも触れるなど、子どもたちがリアルに抱えるであろう悩みも包括しています。
動画が掲載されているページには、〈 子ども・若者へ 〉と〈 保護者・大人の方へ 〉という項目があり、それぞれの視点での内容の理解を一層深めることができるようになっています。
『性的虐待は誰にでも起こりうること』の動画ページに書かれている内容を、一部紹介します。
〈 子ども・若者へ 〉では、“性的な行為や誰かの胸や性器、お尻を相手の許可なく触ること、いわゆる性的同意をとっていない状態での行動はどのようなものであっても性暴力とみなされます”という法律の存在を最初に伝えています。 (※注意:掲載ページ内では、日本の刑法では性的同意ができる年齢を13歳以上とされていますが、2023年に法改正があり、13歳から16歳以上に引き上げられています)
また、子どもからのよくある代表的な質問も掲載されていて、たとえば「ある人から性的な物を見せられ、嫌な気持ちになった。どうしたらいいのかわからない。」という相談に対して、
- 起こったことを秘密にせず、あなたが信頼できる大人に話してみること
- 自分が自分の安全を優先することは当たり前だということ
- 最善の方法が話すことであり、助けが得られるまで話し続けること
と子ども目線でのアドバイスを載せています。
一方で、〈 保護者・大人の方へ 〉では、子どもと性的同意を学ぶために「他人との境界線(バウンダリー)」について話し合うことを勧めています。ここでの境界線とは、他の人は子どもたちにどう触れるべきで、どう触れるべきではないかを意味し、「子どもたちにキスやハグをしてもよいか聞いてみましょう」といった実際の会話のきっかけの例を挙げています。これは、実際に親として子どもにキスやハグをしたい場合に、「許可をもらうことを通じて、同意を教える」という方法になります。

このようなトピックごとの動画に付帯した「保護者・大人向け」のTIPS以外に、4歳から9歳の子どもを対象にした『amaze jr.(アメイズジュニア)』のシリーズがあります。動画を一人で見て学ぶことが難しい小さな子どもでも、性に対しての興味や疑問を持つことはあります。このページは「赤ちゃんはどこからくるの?」「赤ちゃんはどうやってできるの?」といった素朴な質問に対して、どのように答えるのかなどを学ぶ『保護者向け性教育シリーズ』です。
動画サムネイルにある『more INFO』ボタンをクリックすると、日本語での役立つ資料や日本で実際に手にとることができるおすすめの本なども紹介されています。

性教育は、「自分を守る力」を育むために必要なもの。「知らなかった」では済まされないことがあるからこそ、正確な情報を正しく学び、伝えることが大切です。年齢に適した情報を提供し、主体的に学ぶことができるサイト『AMAZE』を使って、ぜひ親子で一緒に、もしくはあなた自身を守るためにチェックしてみてください。

紹介したWEBサイト
日本語版を監修しているNPO法人ピルコンのサイトでは、『AMAZE活用ガイド』をはじめ、学びを深めるワークシートを無料でダウンロードできます。