Learning Design Lab. ラーニング デザイン ラボ

多様な旅行者になりきって、共生社会を体験する協力型カードゲーム『ワンダーワールドツアー』

ワンダーワールドツアー

「多様性」や「インクルーシブ社会」という言葉を聞く機会が増えてきています。でも、私たちの日常ではまだ、本当にそうした「ちがい」を持つ人たちと出会い、それを実感できるきっかけは多くはありません。

この『ワンダーワールドツアー』は、さまざまな「ちがい」を持つ人たち同士で旅行を楽しんで帰ろうというストーリーの協力型カードゲームです。目標はシンプルで、制限時間内に全員が指定のカードを集めること。しかし、プレイヤーは最初に配られた『旅行者カード』の旅行者――手話などみぶり手ぶりで話す人、目をつぶり、音で世界を知る人になりきってプレイしなければなりません。それぞれの「ちがい」を実感しつつ、気がつけば相互の助け合いが始まる、そんなゲームです。

学びのポイント

  • 「マイノリティの立場」を疑似体験し、その視点に気づける
  • 自分だけでなく、「他者の視点」を想像する機会を得る
  • 「支援」ではなく、「相互協力」という関係性を実体験できる

対象年齢

小学校低学年から大人まで


自然と相互協力が深まるプレイ体験

ゲームは、架空の国「ワルワン国」を旅しながら、観覧車に乗ったり、イチゴ牛乳を飲んだり、キノコ図鑑を探したりと、みんなで一緒に観光を楽しむという設定になっています。実際には、観光体験が描かれた『ツアーカード』を指定の組み合わせで「3枚」集めることが目標となり、事前に決めた時間内にプレイヤー“全員”が目標を達成すれば「勝利」。そうでなければ「全員負け」という、競争ではなく協力型のカードゲームです。

裏向きのカードをめくって、指定された組み合わせの『ツアーカード』を集めることがゲームのミッション。

プレイ方法としては、トランプの神経衰弱のようにカードが裏向きで場に広げられ、手番の人はそこから1枚をめくって手札と交換するか、自分のカードをプレゼントする。これを繰り返して目的のカードを集めていきます。この3枚は、旅行先の言葉である“ワルワン語”で書かれてあり、『ツアーカード』の「行き先/すること/持ち物」の組み合わせがゲームのミッションになっています。
とてもシンプルなルールと単純な動作の中に、実は本ゲームで重要となる2つのポイントが表れています。

1つ目は、ゲーム開始時に各プレイヤーに配られる『旅行者カード』の影響です。「身振り手振りで伝え声を出さない人」「小指だけ使える人」「カードに手が届かない幼児」など、多様な特性が設定されており、場のカードをめくって手札を変えるという単純な動作も一筋縄ではいきません。

このゲームの特徴となる『旅行者カード』は、プレイヤーに制限を課すことで多様なゲーム体験を生み出している

たとえば「小指使いの旅行者」の場合は、小指以外の指を使えないため、カードを操作するのにも時間がかかります。そこでチーム内には自然と“助け合い”が生まれます。これは、このゲームの最大の特徴です。 加えて、同じチームに「みぶりてぶりの旅行者(発話できない)」と「音で世界を知る旅行者(目をとじる)」がいる場合などは、彼らが互いにどのように意思疎通するか試行錯誤のやりとりは、単なる“ゲーム攻略”ということを超えて、現実社会での課題解決にもつながる貴重な体験だと言えるのではないでしょうか。

2つ目のポイントは、『思い出カード』です。このカードは、『ツアーカード』と同じデザインで場に多数まぎれ込んでいるため、プレイ中に何度もめくることになります。カードには、「見本の手話をやってみよう」「誰でもわかる形に言い換えてみよう」「好きな食べ物をジェスチャークイズをしよう」など、さまざまな「アクティビティ」の指示があり、これをグループの全員で、実際に実行しなければ次に進めないルールとなっています。

このアクティビティによって、プレイヤーに求められる動作や連携がとても幅広くなり、臨機応変な助け合いが促されます。また制限時間に対する切迫感も生まれ、「全員で協力しよう」というモチベーションを高める効果があります。

『思い出カード』の多様なアクティビティが、プレイ全体に体験の幅と、制限時間への緊張感が作っている

特殊な動作が必要なものから、発想を広げて回答するものなど、アクティビティのバリエーションはとても豊か。次はどんなアクティビティが飛び出すのかというドキドキも、ゲームの楽しさを盛り上げています。

共生を「体感」し、自分事とする仕組み

多様性やインクルーシブ社会について座学の講座や学校の授業で学ぶときと比べると、本ゲームには『旅行者カード』『思い出カード』などの仕掛けによる動作や体験があることによって、次の3つの優れた学びの機会を提供していると言えます。

1.制約を“体験”することで気づける
「制約のある自分」を演じることで、見えてくる世界が変わります。わずか数分のプレイでも「想像できなかった状況や感じ方」を実体験することができます。

2.相補的な協力のあり方を学ぶ
全員が何らかの制約を抱えていることで、支援する・されるという関係ではなく「相互のちがいを前提に、どうやって協力できるか」という観点を養うことにつながります。

3. だれもが“主人公”になれる設計
すべてのプレイヤーが、他者を助けて活躍できる立場であり、なおかつ、他の人から「何か困っていないか」と観察される対象でもあるため、自分がゲーム展開に能動的に影響していると感じることができます。

中心軸にあるのは、不便を体験することではなく「他人に助けてもらいながら、他人を助ける」という体験

また、多様性やインクルーシブ社会を学ぶ他のゲームやメディアと比較したときのユニークな点は、制約となる『旅行者カード』が、いわゆる「障害者」とされる人ばかりではなく、「人と話すのが苦手」といった個性を含めた設計になっていること。これは、「障害」といった社会的な要請で作られたカテゴライズにとらわれず、全員が何らかの特殊な性質を持つキャラクターとして、「多様なちがい」を見つめる姿勢を促します。
旅行者カードの説明文が、「目が見えない」のではなく「音で世界を知る」、「話せない」のではなく「身振り手振りで伝える」など、その特性をフラットな表現で描くよう徹底されている点にも、その姿勢が表れています。

知識だけでなく、姿勢や態度を育てる

最後に、ゲームプレイ時の興味深い現象を紹介します。このゲームで遊ぶ人たちを観察していると、何度も再現される不思議な「ルール破り」の現象です。

バリエーション豊かな『思い出カード』ですが、しばしば一部の旅行者には実行困難な指示が書かれている場合があります。たとえば、「手話で”こんにちは”をやってみよう」と描かれている手話のイラストは、ひじを曲げることができない「ゆっくり100歳の旅行者」にはどうしても実行できないポーズです。すると、この問題にいち早く気がついたプレイヤーから「これ、どうする?」と戸惑い混じりの話し合いが始まり、やがて「このポーズならOKとしよう」などと、カードの指示内容を「全員で再解釈する」現象が見られるのです。

つまり、ルールを人に適合させて「できない」と結論するのではなく、人が「できる」ようにルールを柔軟に改善しようとする姿勢が自然に出てくるのです。この様子からは、ゲームを通じて、共生社会を“知識として理解する”だけではなく、共生社会を“つくる”一員として社会のあり方にも主体的に関わる「態度」が育まれる可能性を感じます。

『ワンダーワールドツアー』は、楽しいゲームという枠組みを通じて、「他者の視点になること」と「そのちがいを肯定的にとらえること」の両方を、無理なく促します。また、知識として「共生社会」を理解するだけではなく、「共生社会のあり方」を自分事として体験し、それを他者とともに主体的に実現しようとする自分と出会うことができる、そんなゲームです。

紹介したゲームコンテンツ

ワンダーワールドツアー

掲載日
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