Learning Design Lab. ラーニング デザイン ラボ
#イベントレポート

高校生たちによるラーニング・アイデア集

本記事でご紹介するのは、高校生たちが「自分たちが学びたいことを、自分たち自身で作る」をミッションに、私立桜丘中学・高等学校で行われた学びのDIYプロジェクトの最終プレゼンテーションの様子です(2021年7月13日実施)。

Learning Design Lab.(以下、LDL)の6つのテーマから各グループごとに関心のあるテーマを選び、生徒たち自身のリサーチをもとに、どのようなラーニングコンテンツを作るかを企画制作していきました。

アイデア① ボードゲーム『Kabuu』

#お金学

企画概要

生きていく上で重要な知識であるにも関わらず、学校教育の現場ではおよそ半数以上の学校で導入されていないお金に関する教育。
多くの高校生たちが「お金は難しそう」と感じていることがわかったことをきっかけに、「お金との上手な付き合い方とは?」をテーマにコンテンツが制作されました。お金に関するさまざまなテーマの中でも「投資」に焦点を当てることで、実社会に出てから活用可能な学びを得ることができます。

学び方

Kabuuは、医療系、観光系、IT系、ベンチャー系、貿易系、メディア系、飲食系など、全部で7つの異なる業種の企業に投資をして資産を増やすゲームです。ゲーム終了時に「最も多く資産を持っている人が勝ち」となります。

ユーザーが投資する際に使うのはお金ではなく『Kabuu card』。ゲーム開始時に1人4枚配られ、最初に投資先の企業を選びます。1つの企業に4枚でも、企業を2つ選んで2枚ずつでも、配分は自由に決めることが可能です。

プレーが開始すると、サイコロの目に応じて「ポジティブマス」と「ネガティブマス」に進みます。それぞれのマスには、企業を進退させる社会的なイベントが記載されていて、もし 投資した企業に関するポジティブなことが書かれたマスにとまった場合は、その企業に投資しているカードの枚数分、山札からKabuu cardを引くことができます。

一方で、ネガティブの場合は、投資しているカードの枚数分÷2を山札に戻すというルールです。例えば、飲食系企業に関連したポジティブマスでは、「新商品を開発して人気が出た!」や、観光系のネガティブマスでは「感染症が拡大して旅行に行く人が減少」など、業種に関連した出来事が発生します。

<ポジティブマス>例

  • [医療系]ワクチンの普及で多くの人が利用!
  • [ベンチャー系]宇宙ゴミ回収プロジェクトが大成功!
  • [飲食系]新商品を開発して人気が出た!
  • [メディア系]ある報道がSNSで話題になりみんなが注目!

<ネガティブマス>例

  • [飲食系]バイトの人が社会的モラルに反する動画をSNSに投稿した
  • [メディア系]起用されていたタレントの不祥事でイメージが下がった
  • [観光系]感染症が拡大して旅行に行く人が減少
  • [IT系]社長のパワハラが発覚

このように、社会的なイベントとそれによって企業の価値が変わる関係性を理解することで、「お金と自分の生活との関係」を考える大きな学びとなります。


アイデア② 戦争交渉カードゲーム『ねごぽっぽ』

#戦争と平和学

企画概要

学校で「戦争と平和」について学ぶ時、歴史的な年号や死者数などの数字は暗記するものの、実は表面的な部分にしか触れていないのではないかと問題意識を持ち、このテーマに挑むことにしました。
リサーチ段階においては、先生側が「戦争が起こる原因について中立的に教えること」「自分の主張を混ぜずに教えること」が難しいと感じていることなどを知り、最終的に「他国との関わり合い方」と「それによって戦争が起きる構造」を学ぶためのコンテンツを制作しました。

学び方

このゲームの名称は、平和の象徴である“鳩”に、交渉を意味する“ネゴシエーション”をつなげたものです。高校生たち自らが「戦争のプレイヤー」となって、互いに持ち手のカードを駆使しながら、国家間の交渉を行うというゲームになっています。

カードは、攻撃力の異なる3種類の<戦争カード>と、それ以外の<平和カード><核カード>の全部で5種類。戦争カードには、実際に戦争で使われた兵器が書かれているなど、具体的な内容を学ぶことができます。例えば、各カードには次のような情報が記載されています。

<コルト1911>(戦争カード)

・開発した国:アメリカ
・使われた戦争:第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争
・使用した国:アメリカ
・主な概要:アメリカ軍からの「1発でも、敵の動きを止められるだけの威力が欲しい」との要望から作られた銃。そのため、そのパワーとスピードに信頼がおかれている。1985年までアメリカ軍の正式銃として使用されていた

<コロッサス級航空母艦>(戦争カード)

・使用した国:イギリス
・使われた戦争:第二次世界大戦
・主な概要:速力、搭載機数にすぐれ、短時間で大量に生産された。航空機やヘリコプターを合計48機搭載することができる

<ファットマン>(核カード)

・使用した国:アメリカ
・使われた戦争:第二次世界大戦
・投下された都市:長崎
・投下された日時:1945年8月9日11時2分
・主な概要:人類史上2回目の実践で使用された核兵器。原爆の爆発時の瞬間温度(地上)は約3000〜4000℃に達する。長崎市の人口の約3分の1に当たる約7.4万人が亡くなった

ルールは、双方が交渉後、互いにカードを出し合い、その出されたカードの組み合わせによって獲得する点数が異なります。例えば、片方が<平和カード>を出し、もう一方が<戦争カード>を出した場合、戦争側にポイントがつきますが、互いに核兵器を使用した場合は、双方の今まで獲得した点がゼロになるよう設計されています。

このゲームを通じて、自分自身が国の代表した立場となり、相手国との話し合いで平和を保つことの難しさや、互いに平和を望みながらも、その手段として武器や核を使用しなければいけないシチュエーションを体験することで、戦争が起きてしまうメカニズムを学ぶことができます。


アイデア③ ロールプレイングゲーム『Re:LIFE 〜金の亡者よ、幸あれ〜』

#お金学

企画概要

子どもが小さい時にお金を学ぶ手段として、『人生ゲーム』という有名なゲームがあります。人生ゲームの勝ち負けの基準は、「ゴール時にいかにお金を多く持っているか?」ですが、本当にそれで良いのだろうかという疑問がありました。
そこで、このゲームでは「お金と幸せの関係性」をコンセプトに、「お金だけで幸せになれるか?」という問いかけをゲーム全体の思想としています。

このゲームは、金に溺れた亡者が人生をやり直すロールプレイングゲームで、ゲームマスター1人、プレイヤー4人の計5名で行います。勝利条件は、幸せを集めて、やり貝ポイントを貯めていき、それらの獲得数で決まります。

まず初めに、<幸せリスト>の中から、自分が幸せだと思うものを5つ選択してゲームがスタートします。次に、ゲームマスターが職業カードを4枚抽出し、それを各プレイヤーが選びます。

参加者は、<PL(プレイヤーカード>を引き、毎ターンごとに「幸せ」を獲得していきます。例えば、引き寄せた幸せが、自分で事前に作成した<幸せリスト>に入れていたものだった場合、その幸せを獲得することができます。

但し、幸せには「お酒」のように“お金が必要な場合”と、「野良猫とたわむれる」のように“お金が必要ない場合”の2種類あり、お金が必要な場合は、その都度お金で購入するかどうかの選択が可能です

また、もしも自分のリストにはない幸せだった場合も、下記のいずれかを選択することができるようになっています。

  • 誰かと交渉するためのアイテムとして購入する
  • ゲームマネージャーに渡してリサイクルし、やり貝をゲットする

カードは、その他にも<ハプニングカード>や<職業カード>があり、それぞれのカードを通じて「インフレ」や「デフレ」の概念、「職業とお金の関係」などを学ぶことができるようになっています。

ゴール時に、「お金を使いきれた人=得点プラス」「お金があまりすぎた人=得点マイナス」という設定になっていますが、<幸せカード>の中に「お金が必要なもの」を含めることで、お金の価値自体を否定せずに、再考するための工夫をしています。

このように、ゲームを通じて人それぞれに幸せの価値観が違うことを学び、それにより自分にとっての幸せとは何か、やりがいは何かを学ぶ機会になると考えています。


アイデア④ ボードゲーム『教えて!性子先生〜! -中学生向け-』

#ラブ&セックス学

企画概要

高校生の人工妊娠中絶数は、年間で7000人を超え、14歳以下でも毎年200名以上いるという現状を知って、日本には性教育が足りていないのではないかという問題意識からスタートしました。一方で、「性についての知識は、大人になれば自然にわかること」と考えている大人が調査から多いこともわかりました。
インターネット上では、さまざまな性的なコンテンツに容易にアクセスできてしまう時代において、ネットで間違った知識を得てからでは手遅れになると考え、学校教育の場でちゃんとした性教育が学べるように考案されたコンテンツです。

これはボードゲーム形式の性教育コンテンツです。ゴールに向けてサイコロを振り、進んだマス目の色のカードを引いて、そこに記された問題に答えていきます。

カードは全部で3種類あります。

  1. 「一問一答」型
  2. 「並び替え」型
  3. 「意見交換・問題形式」型

「避妊」や「妊娠と出産」など、性について学んでおくべき基礎知識を得るのはもちろんのこと、③の意見交換・問題形式カードを通して、「実際に妊娠させた場合どうするか?」や「性犯罪、性病」など、答えを覚えるだけでは決して解決しない他者と話し合うべきテーマが提示されます。

このゲームは男女間であるかに関わらず、性に関するトピックを「決していやらしいことではなく必要な知識である」という意識を持ってもらうことを目指しています。正しい知識をつけることは結果として、望まない妊娠や性被害に遭う人を減らすことにつながります。対面で性教育について議論することはハードルが高く感じられますが、ゲームという設定によって心的ハードルを下げて学ぶきっかけになります。

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