人口の3分の1が65歳以上の超高齢社会を迎えようとしている日本。「ひとりで長生きするのは、ちょっと難しい」をキーメッセージに掲げ、長生きするのも悪くないと思える社会をつくるために活動している会社、それが『BABA lab(ババラボ)』です。シニアを中心とした多世代コミュニティを運営し、そのコミュニティの中で掬い上げた本音をもとに、世の中に必要な「仕組み」や「サービス」「モノ」を生み出しています。
いつかは誰もが高齢者になります。だからこそ、超高齢社会をどう生きるかは、私たち全員に関わるテーマです。今回は桑原さんに、「長生きしても悪くないと思える社会」とはどんな社会か、そしてシニアの生き方や老いることから学ぶヒントを伺いました。
*この記事は、アソボットB面のポッドキャスト『長生きを学ぶ』(2025年8月29日に公開)を再編集したものです。
ーはじめに、BABA labの活動について教えてください
BABA labは、2011年に埼玉県にて『BABA labさいたま工房』(以下、さいたま工房)をオープンしたことから始まりました。私自身がおばあちゃんっ子だったこともあり、祖母が100歳になっても働けるような場所を作りたいと思っていました。さいたま工房では、96歳の私の祖母や50〜90歳代の女性たちが働いています。当初は、シニア(*1)でも使いやすい「孫育てグッズ」を制作しました。たとえば、長時間抱っこしても疲れない『抱っこ布団』や、目盛りを大きくするなど、火傷や落下の事故を防ぐ哺乳瓶『ほほほ ほにゅうびん』などです。
*1:この記事では、シニアを65〜74歳と定義しています。

「100歳になっても働ける場所」としてスタートしたBABA labは、おばあちゃん同士のコミュニティとして成り立っていました。当時取材してくださったメディアも、高齢者コミュニティへの興味を示していたこともあり、工房でのモノづくり活動に加えて、まだ世の中に伝わっていないシニアのさまざまな本音を発信する『BABA白書』という活動をスタートさせました。
現在も、シニアやこれからシニアになる年代の人たちの声を聞くことに積極的に注力しています。これまでに公開した記事には、50〜70代の女性に行った100人アンケート<「おばさん」と「おばあさん」の境界線は何ですか?><年をとって「怖くなくなった」こと>や、長生きする時代を生きるための魅力的な取り組みを取材する『私たちの見聞録』などがあります。

また、2017年からさいたま市の委託事業としてシニア向けの生涯学習の場『さいたま市シニアユニバーシティ』を運営しています。毎年1000名近くのシニアが集まり、一年間の授業を通して社会変化への対応力を身につけ、新たな一歩を踏み出すきっかけづくりを促します。毎年生徒が入れ替わるので、町を歩くと知り合いだらけでたくさん声をかけられますよ。
ー「シニアの本音を聞く」というのはとても大切なことだと思いますが、何か秘訣のようなものはあるのでしょうか?
まず私の場合は、BABA labやさいたま市シニアユニバーシティなどのコミュニティをベースに、対面でお話を聞くことが多いです。ただ、関係性を築く前にいくら質問をしても、シニアは本音を打ち明けてくれません。実際に、シニアがインターネット上で回答するマーケティング調査の結果と、私が対面でお話を聞いた印象とは、時折異なっています。シニアの方々が意識しているかは分かりませんが、「お年寄りがこう答えたらきっと嬉しいんでしょう」と相手が求める答えを出していることも多い気がします。

そして、シニアを理解する際に障壁となっているのが、質問する側が持っている「エイジズム(*2)」だと感じます。私たちは、「おばあちゃんになったら、ファストフード店でコーラを飲んだりしないでしょう」と思いがちです。テレビ番組などのメディアでも、「おばあちゃんのイメージ」として、いまだに「頭にかんざしを刺した女性が縁側にいる」場面を使うことがありますよね。このように、社会には「おばあちゃんとはこういうもの」という固定観念が、知らないうちに根付いているため、「あなたのおばあちゃんは、頭にかんざしを刺していますか?」と尋ねられると、多くの方がハッとした表情をするんです。
だからこそ、大前提として「シニアを『ひとくくり』にしない」ことをまずは徹底して、安心して本音を語ってもらえるように私自身は意識しています。
*2:年齢に基づいた偏見や差別のこと。特定の世代・年齢グループの個人や集団を過小評価したり、差別的な行動を取ったりすることを指す。
ーなるほど。桑原さんは今のシニア像をどう捉えていますか?
シニア像は、ここ10年で変化しています。私が近くで見る限り、ここ2年でシニアの印象がさらに変わりました。
具体的にお話すると、いわゆるシニアのイメージを作ったのは、1947〜1949年頃に生まれた『団塊の世代』。彼らは、1955〜1973年頃の高度経済成長期を引っ張ってきた最も元気な世代です。人口が多い分、現在の若者が受ける印象も強いのではないでしょうか。リーダーシップがあり、組織づくりや体制づくりが得意な反面、議論が苦手で、上から目線で発言してしまう側面があります。ただ、彼らの多くは75歳以上の後期高齢者になりました。
団塊世代の次にあたる『第一オタク世代』と呼ばれるシニアたちは、趣味を楽しみ、若い世代と触れ合うことに積極的です。押し付けることを避け、ディスカッションもスムーズです。そして、この世代は常にインターネットで情報をキャッチし、自分たちが若者からどう見られているかにも敏感です。団塊世代は同世代の人口が多く、横のつながりが強かった一方で、それより下の世代はインターネットの普及などによって多世代から情報を得るようになっています。
また、現在のシニアのみならず、私を含めた50代も「50歳になったから若者に道を譲らなければならない」などと、年代によって役割を振り分けている気がします。この背景には、日本特有の「年齢で足並みを揃える社会」があります。入学、卒業、就職、退職がすべて年齢とイコールで結ばれているため、必然的に世代間に線が引かれてしまうのです。本来は世代なんて関係ないはずなのに、世代で区切る習慣がどこまで伝染していくのだろうかと恐怖感がありますね。
ーシニアと若い世代の分断について、私たちはどのようにコミュニケーションをとればいいのでしょうか?
「共通点を見つけること」がポイントだと考えます。以前、大学の講義で、シニアと情報リテラシーについて話す機会がありました。講義後に、ある学生からこんな感想をもらったんです。
「シニアがSNSなどのデジタルサービスを使い始めることに勇気が要るとありましたが、私も同じです。大学では、Instagramのアカウントをベースに友人とつながります。私はSNSが苦手なので、私ひとりだけ取り残されているような気持ちになります。シニアは、私たちと同じところがあるんですね」

シニアと若者は、外見や過ごした時代などで比べると違う点ばかりですが、学生からの感想のように共通点もあるんです。一方で、時間軸では共通項を見出しづらいと思います。若者に「シニアになった時のことを想像してみてください」と投げかけてもイメージできないですし、シニアに「若い時あったでしょ?」と聞いたりしても、鮮明には思い出せないんですよね。
ー「課題先進国」と言われる日本では、超高齢社会が喫緊の課題です。「誰にも迷惑をかけないように生きていけるのだろうか?」と不安になる人が増えているようにも思います
若い人ほど、孤独になることを恐れている印象がありますね。イキイキとしなきゃいけない、夢を持たなくてはいけない、と感じざるを得ない生きづらい世の中だとも思います。誰かに承認されなくてはいけないと日々葛藤するのは辛いですよね。
96歳の私の祖母は、今も現役で工房で働いています。祖母が工房で裁縫をしている時、近所の若いお母さんたちが祖母と何気ない会話をしていることがあります。その時、話しながら泣いてしまう人がいるんです。それもひとりやふたりではありません。
96歳になっても、祖母がみんなに囲まれて”笑顔でただ生きている”ことに、希望を感じてくれているのかもしれませんね。おばあちゃんになっても、コミュニティの一員として笑っていてほしい、楽しんでいてほしいという若い人からの切実な願いを感じます。「長生きするのも悪くない」と思える、ちょうどよさを感じられる、そんな世の中にしていきたいです。

ー今後、桑原さんがチャレンジしたいことを教えてください
これからは、インプットよりもアウトプットに力を入れたいです。BABA labをスタートして15年が経ち、自分の中にシニアたちの本音が溜まっています。これまで、BABA白書やYouTubeで発信をしてきましたが、それでもアウトプットがまったく足りていません。次のアウトプットの具体策は考え中ですが、シニア向けのサービスを提供している人に向けて、シニアの本音を届けていきたいです。
近い将来、人口の3分の1が高齢者になるといわれていますが、なかなか想像できないですよね。ただ、平日の昼間に最寄駅やスーパーに立ち寄ると、高齢者の多さに気づくと思います。そして、高齢者からは日常生活で不便に感じていることがたくさんあると聞きます。具体的には、駅の案内表示の文字が小さい、モバイルオーダーの操作が分からない、スマホ決済の手順が分からないなどです。これらの課題を放置すると、シニアへ情報が伝わりづらく判断材料が少ないので、詐欺や悪質な契約など搾取されやすい構図になりかねません。
シニアがデジタルデバイスを使いこなせるようになればよいという主張も分かります。しかし、少しの工夫でより暮らしやすくなるのであれば、社会実装を改善していく必要があると感じます。BABA labとしてこの課題にアプローチしていきたいですね。