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#地球と人間学

海の深さと生命の多様さを学べる「海洋生物」図鑑

The Deep Sea

WEBサイトの特性を活かして、画面をスクロールすることで海の中の生物に出会っていくWEBコンテンツ『The Deep Sea』。海抜ゼロ地点から、世界で一番深い場所とされているマリアナ海溝の最深部10924m※までスクロールすることができ、各水深ごとに生息している生き物を学ぶことができる海洋生物図鑑です。

※10924mは1984年に測量船「拓洋」がチャレンジャー海淵を測定した際の最も深かった海淵東部の計測値です。他船での測定値および誤差を考慮し、厳密には世界の最深水深は10,920±10mとされています

学びのポイント

  • 画面のスクロールで海の深さを体感できる
  • 水深ごとの海洋生物を調べることができる

対象:全年齢


「深海」と聞いたら、一体どれほどの深さを想像するでしょうか。感覚的に、数千メートル規模の深さを想像する人が多いかもしれません。しかし、実は海面から200mより深い海のことを「深海」と呼んでいます。一般的には、光合成に必要な太陽光が届かない場所のことを指し、そこから最深部までの距離はエベレストの標高以上となるため、海洋のほとんどの部分が深海ということになります。さらに、深海は海の表層部とは大きく異なり、高水圧や低酸素状態などの過酷な環境のため、その領域に生息する生物は環境適応によって独自の進化を遂げています。

この『The Deep Sea』は、紙の図鑑では再現が難しい深海をWEBサイトの特性を活かして画面を縦にスクロールさせることで、さながら潜水艦に乗って海の中を潜っていくような感覚で深海と生物の多様性を同時に体感することができます。

使い方

全体は実にシンプルな構成で、画面を縦に移動させていくことで、画面中央に表示された「水深」が変化し、それに合わせて各水深エリアに生息している生き物が表示されるというデザインになっています。

水深0〜200m

海面から水深約200mまでの大陸棚には、光合成に必要な太陽光が十分に届きます。この深さでは、水族館でよく見るクマノミやナンヨウハギなどの魚、陸にいるイメージの強いホッキョクグマなどが生息しています。

水深200〜1000m(中深層)

水深200mからはいよいよ深海の入口です。ここから深度1000mまでは、深海の中では浅いゾーンで「トワイライトゾーン(中深層)」と呼ばれています。普段はこのゾーンよりも浅い場所に生息しているサメやマグロは、この中深層にいる群れを捕食するために日中潜水をします。また夜間になると、今度はこのゾーンに生息する生物たちが捕食や産卵のために浅瀬に上がっていくなど、時間帯によって生息する生物が大きく変わるのが特徴です。

この中深層には、世界中の漁獲量(2018年時点)を上回る魚が生息していると考えられていて、持続可能な漁業を実現するための研究も進められています。ちなみに、スキューバダイビングで人間が到達した最高深度は332mです(14分かけて潜水し、浮上には約14時間かかったとのこと)。

同じ中深層の中でも、深度によって環境は大きく変化するため、異なる環境に適応した特殊な見た目をしている生物も多く存在しています。

例えば、「海の天使」と呼ばれている<クリオネ>は、体のほとんどがタンパク質でできているため、透き通った見た目をしています。翼にも見えるヒレは「翼足」と呼ばれる足で、ひらひらと動かすことで海中を移動します。

また、硬骨魚類の中では世界最長と言われている<リュウグウノツカイ>は、大きい個体だと10m以上にまで成長します。全身は銀白色ですが、背びれや腹びれは鮮やかな紅色で、とても目立つ体色をしています。

リュウグウノツカイ以外にも、深海生物には体色が「赤色」の生物が多くいます。なぜ周囲の敵からわざわざ目立つ色にしているのかと不思議に感じる人も多いかと思いますが、もちろんこれには理由があります。

陸上や海の浅瀬では、太陽の光が反射することで生物の色を認識していますが、水深10mを超えると赤色の光は水に吸収されてしまい、「暗い色」へと変化します。そのため、深海では赤系統の色はとても見えづらく、逆に捕食者に見つかりづらい保護色となっているのです。

水深1000〜4000m(漸深層)

水深1000mに到達すると太陽光は完全に届かなくなり、ここから最深部までは「暗黒の世界」が広がっています。ゆえに、深海の生物たちは視界ゼロの世界で暮らしていると思われがちですが、実は深海にいる生物の8割以上が自ら光を作り出すことができるため、深海の中は完全な真っ暗闇ではありません。例えば、よく知られた<チョウチンアンコウ>も暗闇の中で発光する生物の一種で、光につられた獲物を捕食することで生存しています。

そのような地上とはまったく異なる深海の環境は、古代からほとんど大きな変化はなく、生息する生物も環境に合わせて進化する必要がないため、太古からの姿を保った「生きた化石」が多く生息しています。

その「生きた化石」として有名な<シーラカンス>は、1938年に発見されるまで恐竜と同時期に絶滅したと考えられていました。現在は「絶滅危惧種」として登録されていますが、残念ながら日本では剥製でしか見ることができません。

他にも、古代に存在したサメの特徴に似ていることから「生きた化石」と呼ばれている<ミツクリザメ>は、大きく突出した吻が特徴で、欧米では「goblin shark(悪魔のサメ)」と呼ばれています。

ところで、海の平均水深と言われる地点(約3800m)に到達すると、ちょっと変わった物体と遭遇することになります。大西洋に今なお沈んでいる客船<タイタニック号>です。海流や塩水、バクテリアによる侵食が進んでいて、数十年以内には船体がなくなってしまうと言われています。

水深4000〜6000m(深海帯)

水深4000mからは「深海帯」と呼ばれる領域です。氷点下に近い水温、極圧という極限の環境のため、この場所で生きていられる生物はほとんどいません。

そのような環境下でも生存している<マジェランアイナメ>は、日本では「メロ(銀ムツ)」として市場にも流通している馴染み深い魚です。不凍タンパク質を持っているため、氷点下の厳しい環境でも体が凍りつくことなく生きていくことができます。

水深6000〜10924m(超深海帯)

さらに深い6000mからは「超深海帯」と呼ばれています。このゾーンに到達した人類は、月に到達したよりも少ない人数です。

生息している生物たちの生態についてもまだ解明されていないことがほとんどで、潜水調査では毎回のように新しいことが発見されています。

※日本初の潜水調査船:しんかい6500

超深海帯にいる動物の一種、有櫛動物は5億年前から存在しています。クラゲのようにも見えますが、分類的にはクラゲ類と密接な関係はありません。また、後生動物との共通点も見られており、初期進化の解明に重要な生態だと考えられています。

さて、いよいよ深海の最終地点に向けての航海です。9400m付近からは、1960年にマリアナ海溝で有人での最深潜行記録を記録した潜水艦<トリエステ号>が登場します。そこからトリエステ号と共に、過去に人類が到達できた10924mの地点に降りたって、この深海の旅が終了となります。


本WEBサイト『The Deep Sea』では、画面のスクロールというUIを採用することで、深海を疑似体験することができます。スクロールごとに背景の色が濃くなり、いつ海底にたどり着くのか想像できない海の深さを実感しながら、同時に見たことのない多くの多様な生物に出会うことで、海の豊かさや広大さを実感することができると思います。

※特に記載がない場合、数値は2021年9月現在のデータです

紹介したWEBサイト(英語)

The Deep Sea

掲載日

執筆:LearningDesignLab編集部

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