Learning Design Lab. ラーニング デザイン ラボ
#戦争と平和学

異文化のチガイをめくって、くらべて、理解する

THE CULTURE MAP

この『THE CULTURE MAP』は、世界各国の文化の違いを「8つの指標(コミュニケーション/評価/リーダーシップ/決断/信頼/見解の相違/スケジュール/説得)」に基づいて可視化したツールです。異文化マネジメントに焦点をあてた組織行動学者エリン・メイヤー教授の知見をベースに制作されていて、日本を含めたアジア・北米・中南米・ヨーロッパ・オセアニア・アフリカから30カ国の分析結果を比べることができます。

学びのポイント

  • 文化を比較する上での8つの指標について理解できる
  • 客観的な指標に基づき自国・他国の文化を比較できる

対象:異文化コミュニケーションに関心がある人(特にビジネスにおいて)


外国人と接する際、「あぁ、もっと英語がネイティブ並みに話せたら…」と思ったことがあるという人はかなり多いのではないでしょうか。コミュニケーションにおいて、語学力はもちろん大切です。けれど、実はもっと大切な能力があります。

異なる文化圏の人と関わる時、外国語のスキルと同様に欠かせないのが「異文化理解力」です。例えば、日本を訪れた外国人が、時刻表通りに寸分違わず運行する電車のダイヤに驚くというのはよくある話ですが、この場合「1分でも遅刻」と考えるのか、「1日遅れでも気にしない」のかといった<時間感覚(スケジュール)>の違いは、文化によって大きく異なります。

他にも、<意思決定(決断)>をする際に「トップダウン」を求めるのか、「合意形成」を大事にするのか。<信頼>を築く上で重視するのは「人間性」か、はたまた「仕事の質」か。このツールは、私たちが「異文化」と呼んでいるものの解像度を上げ、さまざまな相違点や共通点があることを理解し、学ぶための一助となります。

学び方

THE CULTURE MAPの形状は、片手に収まるスマホサイズのプラスチックのシートが、全部で31枚にまとめられています。その内、30枚の透明シートは、それぞれの国ごとの文化特性を表すものになっていて、一番下の白い台紙には「8つの指標」が縦軸に、各指標における「両極端の特徴」が横軸に記されています。

8つの指標

  • コミュニケーション(低コンテクストー高コンテクスト)
  • 評価(直接的な批判ー間接的な批判)
  • リーダーシップ(平等主義的ー階層主義的)
  • 決断(合意志向ートップダウン式)
  • 信頼(タスクベースー関係ベース)
  • 見解の相違(対立型ー対立回避型)
  • スケジュール(直線的な時間ー柔軟な時間)
  • 説得(原理優先ー応用優先)

国ごとの透明シートは、それぞれの指標ごとに「世界でその国の文化が“どこ”に位置するのか」を表す点が打たれているので、特定の国のシートを白いシートの上に引っ張り出し、他の国と重ねてみることで、文化の違いを比べることができる仕組みになっています。

異文化事例① 日本と中国

同じ東アジア文化圏に属する日本と中国。世界的に見れば相対的に似通ってはいるものの、違いがもっとも際立っているのが<DECIDING(決断)>の指標です。意思決定をする際に、どれくらい合意を重視するのかを示す指標で、中国では「トップダウン」での決断が求められるのに対し、日本は完全なる「合意志向」型。多くの人たちが集まって、ああでもない、こうでもないと議論しながら、協調的な合意を求める傾向にあります。

指標は、どちらが優れているかを示唆するものではありません。例えば、トップダウン式の文化では、決定は強力なリーダーシップを持つ個人によるため素早く行われる分、リーダーが変われば気軽に修正変更されてしまう可能性があります。それに対して、合意に基づく文化では、全員の意見を聞こうとするため意思決定にかなりの時間を要しますが、一度決断が下されると実行はとても迅速という特徴があり、その決断は重く受け止められます。つまり、同じ<決断>という指標でも、中身や意味合いは大きく異なるのです。

日本と中国の比較で次に差が大きいのは、<SCHEDULING(スケジュール)>。日本の時間感覚は、「直線的」で締め切りを遵守し、柔軟性よりも迅速さを重視します。一方で、中国では時間を「流動的」に捉えるため、プロジェクト進行中に予期せぬことが起きても、柔軟に対応する順応性に価値が置かれています。

異文化事例② アメリカとロシア

冷戦時代を含めて、外交的に対立することが多いアメリカとロシア。両国を比較してみると、多くの指標において対照的な性質であることが見て取れます。中でも違いが顕著なのが<PERSUADING(説得)>と<TRUSTING(信頼)>です。

自分の意見を説得する場面において、アメリカは現実に起きている個別の事実から「普遍的な結論」を導こうとするのに対して(応用優先)、ロシアは「原理・原則」を最も重要視し、常にそれを根拠に説得を行おうとします(原理優先)。

また、仕事上の信頼関係を形成する際においては、アメリカは業績や技術といった「仕事の質」を重視します(タスクベース)。言い換えると、信頼関係は「ビジネスに直接関連した活動によって築かれる」と考え、実際の仕事の状況に合わせてくっついたり離れたり簡単にできるため、ある種のドライさがあります。それに対して、ロシアは食事をしたり、お酒を飲んだり、ゆっくりと時間をかけて信頼を築いていく「関係ベース」の傾向があり、そのウェットさゆえに関係がこじれた時の難しさがあります。

他にも、コミュニケーションにおいては、言語化することに重きを置く「低コンテクスト」文化のアメリカと、その反対のロシア。リーダーシップにおいても、「平等主義」的なアメリカと「階層主義」的なロシアなど、多くの指標で対照的な文化圏だと言えそうです。

<コミュニケーション>の指標

このように、国ごとに異なる文化を持っていますが、一方で、どの指標においても点の位置は「絶対的」なものではなく「相対的」なものです。例えば、上図の<コミュニケーション>の指標では、言語化せずに相互理解を得ている「高コンテクスト(右)」に多くのアジア諸国が位置付けられていますが、中国人からすれば、最も右端に位置する日本人のことは、行間や空気を読む会話ばかりをしていると見えているかもしれません。また、ヨーロッパ諸国の中では圧倒的に言葉の抽象度の高いフランス人も、インド人から見てみれば、(アメリカ人のように)言いたいことをストレートに話す文化だと感じているかもしれません。

自国を深く知るためにも、他国を理解する。そうやって互いの「異文化理解」度を高めることは、友好的な関係を築いていくための重要な一歩になるはずです。

関連WEBサイト(英語)

Erin Meyer

※エリン・メイヤー教授のWEBサイトにて、このツールと同様のデータの閲覧や、自分自身の特徴をマッピングするなど、さまざまなツールを使用することが可能です(有料)

掲載日

執筆:LearningDesignLab編集部

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